バーチャルコミッショニングの概要
バーチャルコミッショニングでは、実際に生産設備を構築する前に、コンピューターシミュレーションによるテストや最適化が行われます。この手法により、製造現場のあり方が大きく変わりつつあります。立ち上げプロセスの簡素化やコスト削減に加え、効率性や作業者のスキル、工場の生産能力の向上にもつながります。この記事では、バーチャルコミッショニングとは何か、そしてこの技術を活用した製造現場の改善方法について、詳しく解説します。

バーチャルコミッショニングを活用することで、予定されたFAT(工場受入試験)の日程に間に合わせられるだけでなく、FATを確実に通過できるようになります。場合によっては、仮想空間でFATを実施することも可能です。FATの日程は、工場の停止スケジュールや新製品の発売時期によって決まる場合が多く、これを逃すとスケジュールが大幅に遅延し、それに伴う責任追及が始まります。こうした状況を避けるために、長時間労働や性能面での妥協が発生することも少なくありません。
こうしたプロジェクトで生じた遅延を分析した結果、いずれの場合もコミッショニングが主な原因となっていることが指摘されています。今までは実際にハードウェアが完成しなければ、制御ソフトウェアのテストやデバッグが行えないという問題があったのです。
この問題を解決するのが、最新鋭の製造シミュレーションツールです。ここでは、バーチャルコミッショニングとは何か、その効果的な使用方法、メリットについて説明します。この記事で取り上げる内容は次のとおりです。
ソフトウェアとコミッショニング
PLC(プログラマブルロジックコントローラー)の登場以来、製造機械や自動化設備にはソフトウェアが欠かせないものとなりました。ソフトウェアはセンサーから情報を読み取り、アクチュエーターに信号を送ることで、必要な作業シーケンスに従って機械を動作させます。
これまで、ソフトウェアをテストするには、実際に機械を動作させる必要がありました。つまり、機械が完成してからでなければ、稼働を開始できなかったのです。また、ソフトウェアである以上、バグやエラー、抜け漏れ、処理タイミングの問題が発生するため、プログラムを修正する必要が生じます。この作業には時間がかかるうえ、プロジェクトの計画段階で正確に見積もることは非常に困難です。想定外の問題が発生し、プロジェクトが遅延することはほぼ避けられません。
バーチャルコミッショニングでは、この順序を入れ替えることにより、プロジェクトのクリティカルパスにおけるコミッショニングの影響を抑えることができます。このセクションでは、まずバーチャルコミッショニングの概要を解説します。その後、従来のコミッショニングとの関係や、インダストリー4.0の概念であるデジタルツインとの関係について扱います。
バーチャルコミッショニングとは
バーチャルコミッショニングとは、「コンピューター上の仮想空間で、設備の設計や動作の構築、テストおよび検証を行うこと」と定義されます。より実務的に言えば、ソフトウェアを使用して、実機が構築される前に制御ソフトウェアのテストや検証を行うことを指します。
この作業は、実際の現場にソフトウェアとハードウェアが導入された際に、正しい設定で意図したとおりに動作することを確認するために行われます。機械が完成する前に実施することで、コミッショニング作業の大部分をプロジェクトのクリティカルパスから外すことができます。これにより、製造作業と並行して、あるいはそれよりも早い段階で進めることが可能になります。
自動化ソリューションを提供する企業の多くは、機械の動作確認のために引き続きコミッショニング工程を設けています。一方で、ソフトウェアの問題を早期に発見して対応することで、リスクや不確定要素の大部分を事前に低減することが可能です。
ソフトウェア上で機械を作成
まずは3D CADを使用し、動きのない機械モデルを作成します。これを実際の機械と同じように動作させるには、運動学(機械の動き)や制御システム(入力、出力、タイミングやシーケンス)を追加する必要があります。
ロボットは通常5つから7つの軸を持ち、ガイドウェイやレールの制約を受けずに自由に動き回るため、運動学モデルの構築が難しいと言われています。こうした課題に対応するのが、ロボットシミュレーションとOLP(ロボットオフラインティーチング)ソフトウェアです。
仮想機械とデジタルツインの違い
デジタルツインに詳しい方は、ここまでの説明が仮想機械と同じものに感じるかもしれません。しかし、この2つには大きな違いがいくつかあります。
- 仮想機械では、デジタルツインの対象となる機械はまだ製造されておらず、仮想モデルのみが存在しています。
- デジタルツインは実機の設備とデータ接続され、実際の数値が仮想空間の設備に取り込まれます。
- 仮想機械によるバーチャルコミッショニングの目的は、機械を製造する前に誤りや問題を発見することです。これに対し、デジタルツインの目的は、実機を再現してテストやシナリオ評価を行うことです。
機械が設置され、コミッショニングが完了したら、バーチャルコミッショニング用のレイアウトをデジタルツインに移行することができます。また、デジタルモデルをオリジナルと見なし、実際の機械を仮想レイアウトの複製と考えることも可能です。これにより、仮想環境での実験やテストをさらに進めることが可能となり、これまでに投入した時間と労力に対するROI(投資収益率)を高めることができます。デジタルツインは、製品の生産スケジュールを別の方法で組むことを検証したり、異なるパッケージサイズを設備内で処理した場合の影響をテストしたりする用途にも活用できます。詳しくは、ブログ記事「デジタルツインとバーチャルコミッショニング」をご覧ください。
バーチャルコミッショニングのメリット
ここまで、バーチャルコミッショニングを行う理由について触れてきました。次に、機械メーカーや自動化ソリューション提供企業にとってのメリットをさらに詳しく見ていきます。
主なメリットは次のとおりです。
- 問題の早期発見
- リードタイムの短縮
- コスト削減
- 設計および実装における柔軟性
- トレーニング
- 安全性の向上
問題の早期発見
機械の動作は、取り付けられたセンサーにより部品が検知されない限り、開始されません。ただし、タイミングがずれたパルス信号は、PLCで見逃される場合があります。この場合、機械が待機状態のまま停止してしまいます。
こうした問題は、従来のコミッショニングでも発生し、解決する必要が生じます。しかし、センサーやアクチュエーターの数、制御コードの行数を考慮すると、機械を稼働状態にするまでにかなりの時間がかかってしまいます。
バーチャルコミッショニングの場合、同様の問題は生じたとしても、コードの修正によりプロジェクトが遅延することはありません。ロボットエンジニアが問題を発見し、修正している間も、機械を止めることなく製造を続けることができるためです。さらに、時間的なプレッシャーがなくなることにより、サイクルタイムを悪化させない、より良い修正方法が見つかる場合もあります。
この例はシンプルながらも、バーチャルコミッショニングが問題の早期発見に役立つことを示しています。
より複雑な例として、生産ラインにロボットを導入するプロジェクトを考えてみましょう。ロボットの設置位置がわずかにずれるだけで、指定された作業範囲に届かなくなる可能性があります。この場合、問題を解決するには大幅な手戻りや新しいロボットの導入が必要となり、プロジェクトの遅延やコストの増加につながります。この点、バーチャルコミッショニングであれば、ロボットが誤った位置に設置される前に問題に気付くことができます。
リードタイムの短縮
コミッショニングは、プロジェクト全体の期間の25%を占める場合もあります。部分的に製造作業と並行して実施したり、機械設計の仮想モデルしか存在しない段階で開始したりすることで、リードタイムを短縮できます。さらに、問題を早期に発見し、解決することにより、リードタイムにおける不確定要素を大幅に削減可能です。これにより、機械メーカーは納期をより正確に予測できるようになります。
機械メーカーにとってのもう一つのメリットは、FATや出荷の前に、工場で設備を保管する期間が短くなることです。スペースを有効活用でき、利益の大幅な増加につながる場合もあります。
コスト削減
組み立て済みのハードウェアの問題を修正するには、高いコストがかかります。新しい部品が必要になることもあり、設置のために時間外労働が生じる場合もあります。こうした問題を設計段階で解決できれば、コストの大幅な増加を防ぐことができます(予備費に割り当てる金額が減ることで、予算策定の精度も向上します)。
設計および実装における柔軟性
バーチャルコミッショニングは、製造におけるイノベーションの機会を広げます。
従来のコミッショニングでも、設計の改善ポイントは頻繁に見つかります。たとえば、把持シーケンスの変更によるサイクルタイムの短縮や、コンポーネントの位置変更による設備の設置面積削減、設定やメンテナンスのためのアクセス性向上などです。ただし、機械の製造がすでに完了しているため、変更にはコストがかかり、遅延の原因にもなります。
バーチャルコミッショニングであれば、新しいアイデアを設計に取り入れても、プロジェクトへの影響をはるかに小さく抑えることができます。結果として性能やメンテナンス性が向上し、コスト削減につながる場合もあります。
トレーニング
設備投資においてROIを最大化するには、機械や設備をできるだけ早く工場の現場で稼働させる必要があります。そのためには、エンジニアやメンテナンスチーム、設備を操作する現場スタッフに対し、使用方法やメンテナンスに関するトレーニングを行うことが重要です。
従来のプロセスの場合、トレーニングは機械のコミッショニング完了後(通常はFAT後)に実施されます。これに対し、バーチャルコミッショニングの場合、ハードウェアのデジタルモデルを使用してトレーニングを開始できます。実際のハードウェアを使った実地トレーニングが望ましい場合も多いですが、関係者がロジックシーケンス、アクチュエーターの位置、投入・取り出し設備などをすでに理解していれば、習熟までの時間は大幅に短縮されます。
その後、デジタルモデルをデジタルツインへ移行すれば、新しい現場スタッフの教育やスキル向上にも活用できます。
安全性の向上
動作する設備、特にロボットは非常に危険な場合があります。通常稼働時にはガードやインターロックによって作業者は保護されていますが、コミッショニングでは視認性やアクセスを確保するために、こうした装備を開放・無効化する必要が生じることがあるのです。
動作パス・シーケンス・タイミング・例外処理を仮想環境で確認することで、危険な状態での実機運転を減らすことができ、リスクを低減できます。
バーチャルコミッショニングの各ステップ
当社でのバーチャルコミッショニングにおける実践経験に基づき、実施にあたっては10のステップで順に進めることをお勧めします。
- 正確なモデルが必要となる背景の理解 – モデルの正確性がなぜ重要であるかを理解し、必要な情報が得られるよう取り組む必要があります。誤りや不一致がある場合、バーチャルコミッショニングで得られる情報の有用性が低下します。そうした情報を実際の現場に適用すると、適切な結果が得られなかったり、誤解が生じたりするおそれがあります。
- 設備の分析と定義 – 生産設備の目的と機能をしっかりと把握します。その後、機械や制御システムに関連する技術的ドキュメントや仕様、要件をすべて確認します。
- モデルの構築 – CADデータとVisual Componentsのeカタログから入手できるモデルを組み合わせ、生産設備の正確な3Dモデルを作成します(Visual Componentsのeカタログでは、3,000点を超えるコンポーネントを使用できます)。その後、運動学データや電気的データなどの関連データを統合し、計画されている機械や設備の詳細なデジタルモデルを作成します。
- 制御ロジックの統合 – PLCとロボットコントローラーをデジタルモデルに接続します。これにより、制御シーケンスや応答、設備全体の挙動を仮想空間でテストできます(Visual Componentsでは、KUKA社、DOOSAN Robotics社、ABB社、FANUC株式会社、OPC UA、Beckhoff社、Siemens社製SIMITおよびS7など、主要なロボットブランドやPLCシステムとの接続に対応しています)。
- シミュレーションとテスト – さまざまな稼働状況に応じてモデルの性能をテストし、可能であれば実際のデータと照らし合わせて検証します。通常運転だけでなく、例外やエラーが発生した場合のテストも含め、想定外の事態にも対応できることを確認する必要があります。
- 改善 – シミュレーションの結果をもとに、制御ロジックにおいて不整合や効率性の低下が見られる部分を特定し、修正します。その後、再度テストを実行し、モデルの精度が向上しているかどうかを確認します。仮想モデルが想定どおりに動作するまで、これを繰り返します。
- 安全性とコンプライアンスの確認 – 制御ロジックと設備の設計が想定どおりに機能し、関連する業界水準や安全基準を満たしていることを確認します(ロボットの安全性には、特に細心の注意が必要となります)。安全性やコンプライアンスに関して厳しい要件がある業界では、こうした確認やテストが特に重要です。
- 実機での試運転 – バーチャルコミッショニングの場合、この手順にかかる時間は大幅に短縮されますが、不要になるわけではありません。この段階では、テストと検証を行った制御ロジックを、モデルから実際の設備に移行します。さらに、初期運転時に設備をしっかりとモニタリングし、想定どおりに動作していることを確認します。
- 継続的な改善 – 実際の設備をしばらく稼働させ、フィードバックや稼働データを収集します。これをバーチャルコミッショニングによる予測結果と比較し、導入後の見直しを行うことで、不足や改善点を特定します。そこで得られた知見を活用し、モデルやデジタルツイン、制御ロジックをさらに改善します。
- ドキュメントの作成 – バーチャルコミッショニングは、一度実施すれば終わりというプロセスではありません。実際の設備に変更が生じた場合や、最適化が必要になった場合には、再度実施することになります。初期設計から最終的な実装まで、バーチャルコミッショニングにおける手順をすべて記録しておくことで、問題の解決や将来的な設備のアップグレード、拡張に役立ちます。
導入事例

さらに詳しく知りたい方は、Visual Componentsを使用してバーチャルコミッショニングの導入に成功した4社の事例をご覧ください。
- シミュレーションを活用した、ドライブスルーウィンドウの製造における自動化ポイントの特定
- 工場の正確なデジタルモデル作成
- 自動化セルのデジタルモデル構築
- 梱包作業のシミュレーション
バーチャルコミッショニングが今後重要となる理由
製造業ではデジタルトランスフォーメーションが進んでおり、インダストリー4.0と呼ばれる次世代の製造フローの中で、機械や設備の設計や実現の方法も変化しています。センサー、制御、ソフトウェアは、このインダストリー4.0の進展において不可欠な要素です。これらを活用していくことで、機械は今後より高速化し、高精度で再現性が高く、より柔軟なものとなっていきます。
こうした次世代の機能は、製造業者における無駄の削減や利益率の向上につながり、スピーディーな導入がますます求められるようになります。このため、競合他社に差をつけ、設備投資におけるROIを最大化するためには、バーチャルコミッショニングが主要な要素になると言えます。
すでにデジタルツインを作成していたとしても、バーチャルコミッショニングに活用できていない場合、見直しが必要かもしれません。また、いまだに組立現場でコミッショニングを行っており、FATの期限に間に合わないのであれば、現在のアプローチを再考する必要があるでしょう。
Visual Componentsは、こうした状況に必要なツールや知識をご提供します。詳細については、「Visual Componentsを活用したバーチャルコミッショニング」のラーニングパスをご覧いただくか、当社までお問い合わせください。